徳島大学病院

施設名徳島大学病院(徳島市)
制作場所中央診療棟階段壁面(1~3階部分)、中央診療棟廊下壁面(1階)、西病棟入口壁面
制作期間2018年8月~2019年3月
内容階段アート「お遍路さんの四季巡り」、左側通行サイン、クリスマスツリー
現状左側通行サインのみ部分的に現存(2020年末時点)

2018年の春、徳島大学病院のHI(ホスピタル・アイデンティティ委員会)で、院内の階段利用の促進策について検討が行われていました。別の大学病院では、階段の段面や壁面に、何段上ると何カロリーが消費されるという表示があったという報告があり、これを取り入れようかという話も出ていました。

ただ、消費カロリーの比較対象として示されている身近な運動(ウォーキング、ランニング、水泳など)との差が大きく、これが階段を上るモチベーションになるのだろうか、またカロリーを消費することを美徳のように示すのものどうか、検査の連続で数値に疲れている患者さんにさらなる数値目標を示すのもどうか、などという疑問が湧いてきました。

もっと階段に行きたくなるような方法はないものか?

大学病院にはアートギャラリーが複数設けられており、廊下などにたくさんの絵がかけられています。その雰囲気を階段にも持ち込めないだろうかと考え始めました。

ただ、階段の壁面は額などを飾ることができない構造になっていました。
かといって、わたしたちの間には、壁画などを描ける専門的なスキルを持つ人もいなければ、アーティストに依頼する予算もありませんでした。

そこで行き当たったのが、マスキングテープという素材でした。

マスキングテープの最大の特徴はきれいに剥がせること、つまりやり直しがきくこと。本格的な施工に比べると安価でもあり、基本的にどこにでも使える。プロの存在と予算がないわたしたちにぴったりだと考えました。

そこから学生有志を募り、デザイン案を話し合いました。
ホスピタルアートというと子どもを対象としたものが日本では多いのですが、大学病院の患者さんは6割以上が高齢者ということで、地域になじみのあるお遍路さんを軸に、四季折々の植物などを入れ、「お遍路さんの四季巡り」というテーマで階段の上り下りを楽しんでもらうことを考えました。

制作を開始したのが8月だったので、まずは夏の場面から。
階段内側の手すりの下にはお遍路さんシルエットも。
秋~冬の場面。黄色に染まった銀杏の木と焚火するお遍路さん。
秘かに焼き芋をしています。もちろん徳島の鳴門金時です。
秋の場面。お月見しながらお団子を食べて一休みするお遍路さん。
さざんかは検査技師さんたちの力作。達磨朝日も表してみました。
これまでと少し趣を変えて、障壁画風の雪中梅と初春の梅。
3階の最後のコーナーは満開の桜で締めくくり。

階段の制作を始めると、今度は1階の廊下のサインの問題が浮上してきました。検査に向かう徒歩の患者さんや職員さんばかりでなく、業者さんのワゴンや車椅子、ストレッチャーなど、非常に往来の多い廊下で、ヒヤッとする場面もありました。一応の「左側通行」のサインはありましたが、A4サイズの紙にをラミネートしたもので、あまり目立ちませんでした。

そこで、階段で好評だったお遍路さんシルエットを活用することにしました。視認性の高い色や位置などを研究し、文字と矢印、シルエットを組み合わせたサインとしました。

文字の部分以外はすべてマスキングテープで作っています。
実は札所の参道や階段でも左側通行が求められています。
お遍路さんのサインが好評だったので、阿波踊りバージョンも作り、サインを増設しました。

クリスマスの時期には、毎年、クリスマスツリーを飾り電飾も施していましたが、自動扉から入る風や電源コードの問題などがありました。救急の出入口に近い場所であることも考慮し、壁面にマスキングテープでツリーを作ることにしました。

「ホスピタルギャラリー」の一角でありながら、展示を邪魔することなく、かつ自動扉を入るとすぐに目に入る柱の一面に、マスキングテープだけで制作しました。凸部も一切ないので安全です。

クリスマスが終わったら撤去する予定でしたが、病院職員の方々に好評で、はがすのはもったいないというありがたい話になりました。そこで、クリスマスを思わせるきらびやかな飾りを外し、一部をお正月飾りにリメイクすることでしばらく残すことになりました。

ツリーから外したクリスマス系のテープ
しめ縄、駒、羽子板、凧、達磨などを加えた
お正月バージョンへのリメイク